平四郎虫
平四郎虫(へいしろうむし)
人に害を成すあらゆるものは妖怪とされる可能性を秘めている。
例えば臭いもの。
または、臭い虫。
平四郎虫は、カメムシが妖怪視された山梨県に伝わる伝説である。虫に人の怨念が宿る話なのだが、意外と悲惨な話だったりする。
昔――
山梨県のとある村で、大金持ちの家の蔵から宝物が盗まれるという事件が起きた。
宝が盗まれたとされる蔵の塀には小さな穴が開いていたが、その穴は子供でも入れるかわからないほどの小さな穴であり、そこから入り込むことは誰にもできないと思われていた。
しかし野次馬の中の平四郎という男が「俺ならできるぜ!」と言い始めた。
やってみろ、と見物人達が言うと、平四郎はゴザを穴のふちにあてがい、するりと穴の中を通って見せた。
「おぉすげぇ!」
と最初はどよめいた観衆だったが、次第に至る所から「ってことはアイツが……」という声が聞こえ始めた。
お調子者の顛末は悲惨であった。
結局平四郎は捕らえられてしまう。もちろん「無実だよ!」と主張したものの、どういうわけか誰一人として平四郎を庇うものはおらず、平四郎は死刑になる事が決まった。
首をはねられるその最後の瞬間、平四郎は見物人達を睨めつけ、
「お前ら覚えとけよ。この怨みきっと晴らしてみせるからな」
と呪いの言葉を吐き散らし、首をはねられた。
翌年。
今までは存在していなかった虫が村中に現れるようになった。その虫はひどい悪臭を放ち、作物も黒く枯らせてしまう。
人々はその虫を「平四郎虫」と呼んで畏れ、すぐにお堂を建てて祀った。するとようやくその虫の被害も治まったのだという。
――さて。
真面目に書いてきたが、僕はここに来てようやく気付いた。
平四郎って「屁ぇしろう」ってことジャン絶対。
なんだかからかわれたような気分になったありがとう平四郎虫。この怨みきっと晴らしてやるから覚えとけよ。