あなたはなぜ妖怪なのか? 髪洗い婆
髪洗い婆(かみあらいばば)
愛知県新城氏日吉に伝わる、髪洗い婆という妖怪の伝承。
日吉の、ばんじょうげつという所に学橋(まなびばし)という橋があり、雨が降る夕方にそこを通ると、髪の真っ白な婆さんがじゃぽんじゃぽんと音をたてながら髪を洗っているのだという。
また、それは時に黒髪の美しい美女だったとも伝わる。
以上。
さて。
僕が今回このようなマイナー妖怪に魅かれて記事を書こうと思った理由、それは、「妖怪じゃねぇだろ」と激しく思ったからである。
まず、「雨の降る夕方」という限定された状況であるが、雨の降る夜、ならまだ妖怪っぽくなるのに、あえて夕方と指定している。つまりは、まだ明るい時間である。
しかも雨が降っているのであれば、婆さんの一人ぐらいが洗髪していたところで別に妖しくもないじゃないか――と思うのだ。
例えばこれが現代であっても、「変わった婆ちゃんがいるもんだ」とちょっとした名物ババアになるぐらいで妖怪にはならないんじゃないだろうか。
しかし。
火の無い所に煙は立たない――を信条に、何も出てこないことも覚悟してしつこく追っかけてみたところ……やっぱり出てきた。
愛知県を流れる、豊川という川がある。
その川に伝わる昔話で、「山姥が豊川で髪を洗う」というものを見つけた。
で、豊川の流れる場所を調べてみると、見事この妖怪の伝わる日吉という場所は、豊川に面していることも解った。
この山姥の伝説では、超巨大な山姥が本宮山と吉祥山に跨り豊川で洗髪した――とあった。
これはほんとにめちゃくちゃ巨大である。
もちろん「跨って洗う」で思い出すのは四国の手洗い鬼である。
となるとまさかこの妖怪じゃねぇじゃんと思っていた髪洗い婆も、下手すりゃダイダラボッチ系が起源という可能性も出てくるんじゃないだろうか?
最近、視野が広くなったのか、はたまた妖怪を追っかけるコツみたいなのをちょっとつかめてきたのか、軽い気持ちで書き始めて気付くと深いところに足をつっこんでる――ということがままある。
髪洗い婆に関しては全然深いところじゃないのだろうが、とりあえず元ネタっぽいものは見つけられたし、やはり語られているからには何かしらの理由がある、ということもわかった。
ついでに言うと、多分日本神話特集を始めたお蔭で、その妖怪の伝承の残る付近の神社や寺にまで気を配ることで、ヒントを見つけやすくなったのかも知れない。
(今回も日吉近辺の豊川を下っていったところに厳島神社を見つけた。今日はちょっとギブだけれども、多分そこも叩けば何か出るんじゃないだろうかと思う)
妖怪ってどんだけややこしいンだよ――と改めてその面白さと深さに驚くわけである。