布団被せ~ふわふわのお布団で安らかな眠りを~
布団被せ(ふとんかぶせ)
あぁ寒い。
まどろむ意識。少し布団がずれていることに気付いたけれども、それを直す気力は無い。
あぁ眠い。眠いけど寒い。
よくある真冬の夜の出来事である。
そんな時、ふかふかの布団がふわりふわりと飛んできて、緩やかにあなたの上に被さる。
あぁ嬉しい。
どこの誰だかわからないけれど、これでぬくぬくとして眠ることができる。
でもこの布団は……どこから?
突然その布団はスッとあなたを締めあげる。
あぁ苦しい。あぁ苦しい! ぐるぢい!!
そしてあなたは永遠の眠りにつくのである。
――とまぁその有り難い名前とは裏腹に、凶悪な伝承を持つ妖怪が布団被せである。
(眠っている時に飛んでくるかどうかは知りません)
これは明らかに一反木綿と似ており、一反木綿系妖怪と呼んでもいいかも知れない。
一反木綿は鹿児島県に出現したようだが、こちらの布団被せは愛知県。
一反木綿が空中を漂い列島を上に向かうにつれ、厚みを増していったのかも知れない。
極端に情報の少ない妖怪で、柳田國男の『海村生活の研究』にほんの僅かに記述があるのみ。
しかし、一反木綿にしろ布団被せにしろ、この系統の妖怪に出会うと想起されるのが百鬼夜行絵巻のアイツである。
通称(というか僕称)シーツ君。
百鬼夜行絵巻検証の記事でもイジったのだが、やはりコイツはシーツを被っておどかしてやろう、としているのではなく、シーツに絞められて苦しんでいるのではなかろうか。
とするとまさに一反木綿系妖怪のルーツと言えるだろう。
で。
真面目に考えてみるが、白くてひらひらふわふわ飛んで人を窒息させるようなモノというのは一体何なんだろう?
真っ先に思い浮かんだのは「ふんどし」である。
例えば。
江戸時代、そこここに干してある汚いふんどしが、強風で飛び散らかることが良く起きていた。
そんなものが顔にでも張り付いた日には汚くって臭くって窒息してしまう。
そこで奥様達は「あれは妖怪なんだよ。白くて長いのが飛んできたら窒息させられちゃうから、逃げるんだよ」と子供に躾けた。
そうして一反木綿系妖怪達は産まれたのである。
――とか。
あれいい線いってんじゃね? と我ながら思ってしまったのでもうちょっと調べてみたが、どうやらふんどしは一反(十メートル以上。素材によって数え方変わったりするらしい。いみわからん)もの長さは無さそうである。ただ、木綿ではありそうだ。
しかしこういう場合は往々にして大体だとか「なんか長い」というニュアンスで一反と付けた可能性はあるので、あながち絶対に無い話ではなさそうである。
話が一反木綿に乗っ取られて「結局鬼太郎妖怪の方が好きなんだろみんな!」と布団被せが嫉妬してる気がするので、この辺で。
とりあえず白いの飛んできたら逃げるといいと思う。