霧の中のヤナ
ヤナ(やな)
新年最初の妖怪は、ものすごくマイナーだけれど、タイトルがやけにジブリっぽくなったのでコレでイクことに決定した埼玉県の妖怪、ヤナである。
ヤナは埼玉県の川越城にかつて棲んでいたと言われる。
川越城には「霧吹きの井戸」というものがあり、敵襲の際にはその井戸のフタを開けることで深い霧が発生し視界を妨げたり、水害を齎し敵を阻んだのだという。
このヤナは龍だの蛇だのと水と何かと関係のあるモノが正体とされているが、これは恐らく川越城築城の際のエピソードが関係している。
川越城は、時代の流れに翻弄され当時の姿をほぼ失ってしまっているのだが、築城名人でもあり江戸城を築いた人物としても有名な太田道真(どうしん。資清とも。この親子は何かと天神様、つまりは菅原道真を祀ってたりするけど読みはどうしん。道真は法名)・道灌(どうかん。これも法名)親子が建てた城である。
川越城築城の逸話はいくつかあるのだが、その中に人身御供の逸話がある。
――川越城を築城するはずの場所は湿地帯でなかなか思うように工事が捗らなかったのだが、ある日道灌のパパ資清の夢の中に龍神が現れてこう言った。
「明日の朝目覚めて一番最初に出会った人物を人柱として捧げればきっとうまくいくであろう」
目を覚ました資清の元へ現れたのは、資清の娘であるヨネ姫だった。
なんと世禰姫(よねひめ)もまた、同じ夢を見たのだという。
そしてヨネ姫は周囲の者の反対を退け、約束通りに龍神に城の完成を願いつつ沼に身を投げたのだという。
そうして無事に川越城は完成した。
というもの。
ここで特に注目したいのは、ヨネ姫という名前。妖怪とされている「ヤナ」と凄くよく似ている。
身を投げて人身御供となったヨネ姫が、後に城を守る守護神的な妖怪「ヤナ」と呼ばれるようになった――と考えるのは自然な解釈に思う。
また、一説には太田道灌は最初から妖怪ヤナの存在を知っており、それを利用する形で川越城を築いた、とも言われている。
しかしそれは「道灌は霧の発生しやすい場所だということを知っており」と解釈した方がしっくりくる。
で、後に人身御供となったヨネ姫と結びつき妖怪となったのではなかろうか。
因みに川越城は「霧隠城」という異名を持っていた。
ところで、江戸を発展させたきっかけになったのは太田道灌かそれとも徳川家康か、というぶつかりがある。
家康が江戸に入る前から道灌のガンバリである程度立派なトコになってたんじゃねぇか、とか、いやいや家康がほぼ一から作ったんだよ、とかである。
それらのソースが古い情報であるのはもちろんのこと、それぞれの側の史料がそれぞれを誇張して書くのはいつの時代も大体同じなので、つまりは両サイド共に疑えばキリがない、という状況のようである。
もちろん、互いに実績あっての江戸の超発展であるわけだが、だからといって「どっちでもいいよね」とできないのが人のサガ。
しかしタイムトラベルでもしてみて見ない事にはハッキリしないだろうし、結局真相は霧の中なのである。