日本神話と妖怪~愛、それは憎しみ~
日本神話と妖怪特集その3
はいこんにちはまだまだめげずに続ける気でいるこの特集も晴れて三回目となりました。
特集も何も、まだ妖怪も出てこないし古事記追っかけてるだけなんですが、こうやって噛み砕きつつ書くことで改めて日本神話や記紀(古事記、日本書紀の総称)に興味持つ方が出てくれればそれはそれでやった甲斐があったってなもんです。
つうことで、今回は天地開闢、国産み、と続きましたので神産みから黄泉の国手前まで駆け足でいけたらと思っています。
と、記紀の解釈に関して僕の考察がトンデモナク間違ってたりすることもままあるだろうと思いますので、「それちげぇよ」とかあったらコメント頂けると助かりますし割と天邪鬼なのですぐに修正したりしますのでよろしくお願いします。
尾形月耕画『月耕随筆/伊邪那岐伊邪那美二神・立天浮橋図』
愛、それは炎
さて前回ポコポコと国を産んだりヒルコアハシマをなかったことにしたりと仲睦まじい伊邪那岐と伊邪那美でしたが、まだまだバンバン子を産みます。
全部追っかけるとちょっと漢字疲れしちゃうので、大事なトコロまで飛びます。
ーー伊邪那美が次に産んだのが、火之夜藝速男神(ひのやぎはやをのかみ)、別名を火之炫毘古神(ひのかがびこのかみ)、またさらに別名で火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を産みます。カグツチ、と呼ぶのが一番馴染みがあるでしょう。愛宕神社、秋葉神社に祭られています。(火災を避けるといわれています。というか愛宕神社はすごく沢山の神様を祀ってます)
文字通り火の神様なわけですが、火の神を出産するとどういう事が起きるか?
そう、火傷ですね。
ということで伊邪那美はカグツチを産むにあたり女性器を大火傷してしまうのです。
この部分では、火の有難味、重要性、さらに危険性を同時に描いているように思います。加えて出産の危険性をも込めているのかも知れません。
――で。病床に伏せった伊邪那美はあまりの苦しみに嘔吐します。
ゲロロロロ、っと吐き出したモノからは、その色や形から想像したのかわかりませんが、鉱山の金の神である男女二神が産まれます。金山毘古神(かなやまびこのかみ)と金山毘売神(かなやまびめのかみ)です。
続けて今度は屎(くそ)を漏らし、そこからは波邇夜須毘古神(はにやすびこのかみ)と波邇夜須毘売神(はにやすびめのかみ)が産まれます。ハニヤスは「埴」であり、つまり土をこねた粘土のようなものを指します。これもうんちからの連想でしょう。
おしっこからも神が産まれます。
彌都波能売神(みつはのめのかみ)、和久産巣日神(わくむすひのかみ)。更にこの和久産巣日神には子供がいて、豊宇気毘売神(とようけびめのかみ)と言います。
いつ産んだんだよ。
ミツハノメは水走の事で、灌漑などの神――水神となっています。またワクムスヒとトヨウケビメは農産系を司る神様です。
さてここで注目したいのがミツハノメです。日本書紀では、罔象女神と記されており、どちらにしろ水神なことに変わりはないのですが、妖怪、魍魎との関係が少なからずあるのでは、とされる神様でもあります。罔象を辿ると中国の水の精へと繋がり、その容姿が幼児であったりするので、罔象と魍魎との繋がりが一層濃くなってきたりするんですね。結局煙に巻かれる感じにはなりますが、調べてみると面白いです。
また、麻桶毛という妖怪との関係もありそう、ということを過去に書きましたが、まぁそりゃ小便から生まれた水の神だとしたら多くの妖怪と繋がってくるであろうことは容易に想像できます。
トヨウケビメは伊勢神宮の外宮に祀られていることでも有名ですが、アマテラスの食事担当的なポジションの神様。
前述のようにワクムスヒがトヨウケビメのお母さんにあたります。
アマテラスの元にトヨウケビメが来たのは、雄略天皇にアマテラスからの御神託があったから。
「高天原にいた頃はもっとゆっくりご飯食べれたのに、今は落ち着かなくってお肌に悪いのよ。丹波の真名井原ってところにトヨウケノオオカミって子がいるから連れて来なさい」
そんなアマテラスのわがままで迎え入れられたのがトヨウケビメであり、豊受大神宮(伊勢神宮外宮のこと)ができるきっかけとなったのです。
因みになぜトヨウケビメが真名井原にいたかというと、天女であったトヨウケビメの羽衣を老夫婦が隠して帰れなくしてしまったから。
日本各地に伝わる謎多き「羽衣伝説」の一つです。
――で。
実はイザナミがココで産んだ神様は、陰陽五行に則っていることにお気付きでしょうか?
まず最初に火、次に金、土、水、木、です。ただの排泄物連想じゃなかったわけです。深い。
――そして、結局イザナミはカグツチを産んだ火傷のせいで死んでしまいます。
嘔吐クソ小便と散々な醜態をさらしたイザナミは人の綺麗ではない部分までも全てさらけ出した挙句死んでしまうのです。不憫でなりません。
古事記では、イザナミの死を「神避り(かむさり)」と現しています。当時の死には2パターンあったようで、神避りは地中の黄泉の国へ行く死で、神上りという天上界へと行く死もありました。ここでイザナミが神避りしたのはなぜなのか、謎です。
愛、それは憎しみ
イザナミの死により超絶悲しんだイザナギ。
あまりにも泣きまくった為に、その涙が泣沢女神(なきさわめのかみ)となります。
泣いてスッキリしたかと思いきや、イザナミを愛する想いはそのまま憎しみとなり、我が子でありイザナミの死の原因となったカグツチへと向けられます。
イザナギは十拳剣(とつかのつるぎ)を握りしめ、カグツチを切り刻みまくりました。
この時切り刻まれた体の部位それぞれから八神が産まれますが、名前は省略します。
(それら八神には全て「〇〇〇山津見神」と付いており、山の神様であると思われます)
「ウォォォォわが愛する妹ヨォォォォ!!!」
※イザナギ、イザナミの関係は実は兄妹なのです。
諦めきれないイザナギは、黄泉の国へ行きイザナミに会う決心をします。
狂気です。
黄泉の国に着いた狂愛の兄イザナギは、早速イザナミのいると思われる家を見つけ、戸口で叫びます。
「イザナミよ! 国産みもまだ途中じゃないか! 早く戻って一緒に国を産もう!」
「あぁ愛しいイザナギ! 何で来てしまったの? 私は黄泉の国の食べ物を食べてしまったから、もうきっと地上には戻れない。でも、あきらめず、黄泉の国の神様に聞いてみるわ。ただ一つだけ約束して頂戴。その間、決して私の姿を見ないでほしいの」
「もちろんだとも!」
昔話の一つのパターンである「絶対に見ないでね」がここにも使われています。
ということは……。
あまりにも長い時間待たされたインザギは痺れを切らし、結局中を覗いてしまいます。
イザナミの身体にはウジが湧き、声は咽びふさがり、更に体中に八つの雷神を纏っていました。
「お……俺の知ってるイザナミじゃない!」
ビビったイザナギは一目散に逃げ出します。
気付いたイザナミは「吾に辱見せつ(私に辱をかかせたわね!)」と怒鳴り、黄泉の国の醜女(しこめ)達にイザナギの後を追わせます。
イザナギは身に着けていた物を投げてタケノコやブドウや桃に変え、醜女達の気を逸らせながら大逃亡。
そしてようやく黄泉の国の入り口にたどり着き、境界の黄泉比良坂(よもつひらさか)に巨大な岩を置いて蓋をしました。
ようやく追いついたイザナミは、岩を挟んでイザナギと最後の会話をします。
「愛しい我がイザナギ。あなたがここで私とお別れすると言うのなら、私はあなたの国の人々を一日に千人殺しましょう」
「おぉ愛しい私のイザナミ。君がそんなことをするとしても、私は一日に千五百人の子供を産ませましょう」
こうして二人は決別することとなりましたが、同時にこの瞬間、生と死とが産まれたのです。
ざっと読んでいても、この二人が本当に憎しみ合って別れたのではないことが解ります。
最後の会話でも、互いに言葉の最初に「愛しい我が妻(夫)」と付けていることからも本当はもっと一緒にいたかったのであろうと予想できます。
愛し合った二人の溢れ出す想いは憎しみへと変わり、それでも消えることのない愛情が人の生死を作ったのです。
なんとロマンチックなお話でしょう。
愛する妻(妹)を失ったイザナギは今後どうなるのか?
次回! 「パパも産んじゃうぞ♪」編、お楽しみに!