妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

浪の音で知らせましょう――浪小僧(なみこぞう)

浪小僧

静岡県曳馬野に母と子がおり、その少年が出会ったのがこの「浪小僧」である。

それは日照りの続く日のことだった。

ある日少年は田んぼを耕し終え、帰宅前に小川で足を洗い泥を落としていた。

するとどこからか少年に向けて声が聞こえる。

「もし、そこの少年」

少年はハッとして辺りを見回し、声のする方へ近づいていくと、親指ほどの大きさしかない小さな子供のような生き物が少年に声を掛けているのだった。

「助けておくれ。僕は浪小僧という者です。この前の大雨で海から流されてしまい、気付けばこんな陸地に……。帰ろうにも旱魃続きで帰れない。水気が無いと僕はダメなのです。どうかお願いです、僕を海まで送ってはくれないでしょうか?」

少年は浪小僧の願いを聞いてやり、海まで送ってやった。

浪小僧は大層感謝し、「このお礼は必ず」と言い残し海へと嬉しそうに入っていった。

その後――

その地方は大変な旱魃に襲われた。水は干上がり稲は枯れ、川もただの道となる。

苦しい生活に途方に暮れていた少年だったが、ある日海岸を歩いているとナニカがひょこひょこと海から歩いて来るのが見えた。

「もし! お久しぶりです、波小僧です。以前は本当にありがとうございました。どうやらこの酷い旱魃でお困りの様子。実は私の父が雨乞いの達人でして、恩返しになるかどうかはわかりませんが、雨を降らせてさしあげましょう。それと――今後は、雨を降らせる時は東南から浪の音を、雨を止める時には西南から浪の音を鳴らします。それが合図です」

浪小僧は言い終えると、またひょこひょこと海へと帰って行った。

そして直後、大雨が降り始めた。

それ以降、その地域の人々は浪の音を聞くたびに雨が降るのか止むのかがわかるようになり、大助かりだったということだ。

 

 

なんともまぁ親切な妖怪である。

しかしこの浪小僧自身が雨を降らせるわけではないというのが気になる。

浪小僧の父親が雨乞いの達人――となっているが、その父親が何者なのかは書かれていない。

また、同じく静岡県の別の地域には、有名坊主の行基が藁人形を作り、それに母と子の農作業を手伝わせた話があり、その藁人形が後に浪小僧となり大雨を知らせる――という筋書きになっている。

人形を使役する、という伝承は河童起源と繋がる伝承でもあり、(人形を川に投げ入れ、それが河童になり工事を手伝う――のような逸話が各地にある)その為か浪小僧は河童の一種とも言われる。

他にも、雨を降らせる小僧と言えば雨降り小僧という妖怪もいた。


こちらは中国の伝承上の雨師に使えるという妖怪で、小僧という共通点と、力を持っているのはあくまでも雨師(浪小僧でいうところの父)という点が被るので全く無関係ではない気がする。

 

静岡県の浜松地方独特の波の音――雨降り小僧の伝承――わら人形の伝承――河童の伝承――

それらが複雑に絡み合って、浪小僧は産まれたのかも知れない。

妖怪は調べれば調べるほど、富士の裾野のように正体が分散し広がっていくわけだが、こんなローカルなマニアック妖怪ですらそうなのだ。

河童、天狗、鬼――これらがいかに広い裾野の上にのっかっているか、想像するだに恐ろしいというものである。怪異也。