美しき野火
野火(のび)
先日、雨の夜は怪火のターンと書いた。
怪火、鬼火の類は往々にして地味で、不気味なものであるが、この野火は違う。
土佐(高知)に伝わるこの怪火は、まず場所を選ばない。
どこにでも突如として現れるのである。
大きさもなかなかで傘程。それが目の前に来たかと思ったら……
弾ける!
弾けた野火のび太達は1メートル程の高さを舞い――弾けまくる。
それは時に100メートルを超える範囲に及び、広がり、拡散し続ける。
手に負えない、暴発する花火の如く。
ここで朗報。なんと野火は、手懐けることができるのである。
まず、靴を脱ぐ(草履が好ましい)。
次に、脱いだ靴に唾を吐きかける。
最後に、その唾付きの履物を頭の上に掲げて野火を呼び寄せる。
するとあら不思議、野火達があなたの頭上で舞い始める。
それはまるで操れる花火のようであり、怪火と呼ぶには美しすぎるのだ。
凝った名前でもなければ怖そうでもない。
野の火と書くだけ。ただの野火。
しかし他のどの怪火よりも美しく、強く主張する。
野火の正体は、野火と遭遇し、その輝きを見たその時、心に問いかけてみれば自ずと解る。