戦国時代の妖怪伝説
戦国妖怪伝
妖怪が江戸時代に大流行したのは「娯楽」であったということが大きいのは周知の通り。
戦国時代で必死な世の中、妖怪だなんだと愉しむ余裕なんてありません。
しかし名将智将に面白い「逸話」というのは憑き物ですから、そういう部分では妖怪もしっかりと活動していたようです。
そこで今回は戦国時代に現れた妖怪特集ということで、大体が有名なのですがいくつか紹介したいと思います。
※一般的な見識で、その逸話のほとんどは江戸時代以降に後付けされた逸話であろう、とは言われています。
徳川家康、肉の塊を食い損ねる
『画図百鬼夜行』より「ぬっぺっぽう」
こちらは有名な逸話です。
ある日駿府城の中庭に突然現れた肉の塊のような不気味な妖怪「ぬっぺふほふ」。
キモイので家康も「はよ追い出せ」と命じ捕まえようとしたのですが、逃げ足が速くてなかなか捕まらない。なんとか城外へ追い出すことができたのですが……
後に識者が「それは中国にも伝わる封(ほう)と言うモノです。それを食せば素晴らしい力を得ることができるのだとか」と家康に教え、家康は逃したことを悔しがったのだと言います。
ほぅ。
太閤羽柴秀吉、弘法大師の呪力に遭う
『和漢百物語』より「真柴大領久吉公」
月岡芳年が描いたこちらの絵。これは高野山を視察に来ていた秀吉が、弘法大師をなめた態度を取ったために怒りを買い、秀吉の大嫌いな雷攻めに遭っているところ。
秀吉は過去に何度か、落雷で建物を失っており、雷大嫌いなんです。
妖怪じゃないって? 妖怪みたいなもんでしょうよ!
立花道雪、カミナリを斬る
『絵本百物語』より「かみなり」
大友氏家臣であり、立花道雪よりも通は「戸次鑑連(べつきあきつら)」と言った方がしっくりとくるかも知れません。
そんな道雪の、かなり有名な逸話が「かみなりを斬った」という逸話です。
落雷に遭った際、道雪はすばやく太刀を抜き、なんとかみなりを斬ったのだとか。
因みに道雪が斬ったのは「雷神」であり、別に妖怪の雷獣ではないのですが、それは置いといて。
それ以降、雷神を斬った刀は「雷斬り」と改名され、生涯傍に置いていたと言います。
ホントカナァ?
好きすぎて……佐々成政とぶらり火
『百怪図巻』より「ふらり火」
さっさといきましょう。
お次は織田家に仕えた佐々成政の伝説。
成政には寵愛する側室の「早百合」という女性がおりました。
もうほんとに早百合のことが大好きでたまらなかった成政は、早百合との間に子供も作ります。
しかし、ある噂が成政の耳に入ってしまいます。
「あれは成政様の子供じゃないんだぜ」と。
真偽不明、往々にしてこういう噂はブラフなのですが、早百合を好き過ぎた成政は嫉妬に狂い、早百合を川へ連れ出し、髪を掴んで逆さに吊るした挙句殺し、それにとどまらず早百合の家族もことごとく殺しました。
そんな可哀相な早百合ですが、死に際に恐ろしい呪いの言葉を残します。
「子子孫孫、末代まで呪い殺してやる。そして黒い百合の咲いた時、佐々の家は滅亡するであろう」
以降、雨の強く降る夜には、早百合の殺された川には鬼火が出たと言います。
それは「早百合火」とか、「ぶらり火」と呼ばれたそうです。
ふらり火とぶらり火(早百合火)はイコールではないのですが、関連しているという説もあるので。
松永久秀をも黙らせた果心居士の謎
戦国の世をひょうひょうと渡り歩き、多くの幻術で人々を驚嘆させた――という逸話の残る果心居士。
妖怪ではないかも知れませんが、戦国時代のオカルトチックな逸話としてはとても有名です。
中でもあの松永久秀を参らせた、女房の如く喋りかける幻術。一体どうやったのか?
果心居士について詳しくはコチラでも書きましたのでどうぞ。
織田信長も恐れた大蘇鉄の怪
迷信を信じず、己を大六天魔王と称した信長も、地味で不気味な植物に負けました。
蘇鉄という植物を妙国寺から安土城に植え替えた際、その大蘇鉄が夜な夜な「妙国寺に帰りたいぃぃぃ」とうめき声を上げるようになり、「恐いからちょっと蘭丸見て来い」と森蘭丸に言いつけ、蘭丸が見に来たところの絵↑。
最後は信長も折れて妙国寺に返すことになったそうな。
天狗を言いくるめた小早川隆景
毛利元就の三男で智勇に秀でた小早川隆景が、秀吉の命で天狗さんに「山の木を切らせてください」とお願いしにいったという伝説。
芳年の絵を見ると天狗がいやに恰好よく描かれているが、話の顛末はあっけなく天狗が言いくるめられて終わりです。
詳しくは画像下のリンクからどうぞ。
――と、いうわけでいくつかピックアップしましたが、細かなものや「いやいやそれは後付けだろ」とツッコミたくなるものも入れればまだ一杯あります。
ただ、江戸時代に流行った妖怪ブームの妖怪達と比べると、どことなく楽しさに欠ける気がするのも時代を現しているところなのかも知れません。
平和で余裕のあるトコロに妖怪は湧きやすい。
やっぱりそういうことなんでしょう。