笑い地蔵(わらいじぞう)
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笑い地蔵(わらいじぞう)
むか~しむかしのそのむかし。
今でいう静岡に、大きな声で笑うと伝わる化け物の噂があったそうな。
ある日腕に自信のある侍が、近くの宿に泊まっておった。
「おぉイヤだイヤだ。また笑われちゃった。怖い怖い」
「むむ。女将よ、何をそんなに怖がっておるのだ」
「あらお侍さんごきげんよう。この辺りには一つ目の笑い入道が出るんでございますよ。知りませんでしたか?」
「おい、その噂は本当か? 女将」
「本当も何も、昨晩も荷物を運んでいるところを笑われたんでございますよ。でもお侍さん、間違っても退治しようなんて考えたらいけませんよ。一つ目入道が出る辺りは六地蔵が祀られています。お地蔵様のイタズラかも知れませんからねぇ」
侍はそんなこと考えておらぬ、とウソをついた。
そしてその晩、侍はそろ~りそろりと宿を抜け出し、女将が言っておった場所へといそいそと向った。
「やい笑い入道とやら! いるのなら姿を現せ!」
ざわわ、ざわわ、と音がした。
「ゲラゲラゲラゲラ」
不気味な笑い声が響いて、侍は腰を抜かしそうになった。目の前には一つ目の入道が舌をぺろんと出して――
「ゲラゲラゲラゲラゲラ」
「あわわわわわ……。ぐぐぐ、負けるものか。えいやっ!」
ズバっという手ごたえがあり、一つ目の入道は奇声をあげながら消えていった。侍はその場にへなへなと座り込み、しばらくぼうっとしてしまった。
――次の日の朝、侍が起きて出立しようとすると、女将が立ち話をしている所へ出くわした。
「――そうそう、誰かがイタズラしたみたい。でもお地蔵様を斬るだなんて、罰当たりな人もいるんだねぇ」
侍は嫌な予感がしてすぐに昨晩入道と戦った場所へと向かった。
するとそこには、斜めにバッサリと斬り落とされたお地蔵さんがあった。
「あの化け物の正体はお地蔵様だったのか……」
侍は斬られてしまったお地蔵さんに手を合わせ祈ると、すぐにまた次の宿を目指して出発した。
それ以降、そのお地蔵さんは「袈裟斬り地蔵」や、「笑い地蔵」と呼ばれ今尚その場に残っているのだそうな。
めでたしめでたし。