妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

妖怪はらだしのお腹が心配

はらだし

f:id:youkaiwiki:20140102171959j:plain
歌川豊広画
 

僕はとてもお腹が弱い。←ラノベのタイトルでは無い。

牛乳一杯一気飲み、コーヒーの後にコーラ、ビール飲み過ぎ、などなど、とにかく普段から気を付けなければいけないことは多い。
そしてナメてかかれないのが、睡眠時。
ちょっと油断してお腹を出して寝ちゃったりしたら翌朝(あるいは深夜)に大放出祭である。
 
こんなふうにお腹には気を付けている僕を馬鹿にするかのような妖怪が、「はらだし」である。
 
夜中に突然現れるのだが、酒をすすめると喜んで飲み、そればかりか楽しくて滑稽な踊りを見せてくれるのだという。
その腹には顔があり、見た目は不気味なのだが見た者は幸せな気分になり、幸運になるという。
※それただの腹踊りじゃんとか禁句。
 
それはともかく。
お腹壊さないの?
正露丸持ってるよ?
と、僕からしたら不安になってしまう妖怪だ。
 
ところで、お腹に顔がある「はらだし」の本当の腹というのはどこになるのだろう?
すごく気になる。
 

はらだし遭遇譚

これはな、ガチな話だからよく聞けよ。

俺はよく親友と酒飲みに行くんだわ。つっても安い大衆居酒屋だけどな。

月に一回はその親友と飲むのが恒例になってて、大学の時から会社に入った今でもずっと続いてるんだ。そういう友達、一人ぐらいいるだろ?

あぁ、お前らはいないか。



でな、いつも決まった店ばっかりだから、案外他にも常連っていうのはいるもんで、顔を覚えちゃうわけだ。

俺は顔もいい方じゃないし、どっちかっていうと根暗で、そんな俺の親友もまた然り、って感じでな、二人とも長いこと彼女がいなかったんだわ。

これ、結構重要なポイントだからな。自慢じゃねぇぞ。自慢になんないけどなw



で、いっつも行く店で、同じように結構な頻度で居合わせる女がいたんだよ。

これがマジに可愛い女で、多分年齢は二十代後半ぐらいだと思うんだ。

髪も黒髪ロングっていうベストな感じで、親友も俺も、その女が店にいるとついつい大声で喋っちゃったりしたんだよな。するだろ? 童貞のお前らは特に。



ある日、やっぱりその女が一人で飲んでたんだよ。前々から親友と、

「次行ってまた逢えたら声かけようぜwww」

って約束してたんだわ。

そりゃな、初めて行った店で初めて見る女に声かけるようなことできるタマじゃないぜ? 俺とその親友は。

でもさ、何度も同じ店で会ってると、こう、勝手に親近感持っちゃうわけだよ。

わかるだろ? 特にお前らはそういう思い込みするだろ?

でも結局すぐには声掛けらんなくて、強引に飲みまくってすげぇ酔ってから声かけようって話し合ったんだ。

で、とにかく飲みまくってた。

もちろんその女が帰ってないかチラチラ見ながらな。キモイだろ?

お前らほどじゃないけどな。

そしたらな。スゲーぞ。

そしたら、いきなりその女が俺らの席に来たんだよ。

もう一回言うぞ。

いきなりその女が俺らの席に来たんだよ。



俺も親友も、かなり酔ってたし、はっきり言って意味わかんなかったよ。

でもとにかく、俺らが声を掛けようって思ってたその日に、その女からこっち来たんだよなwwwなにこれwww

俺らから声かけるとしたら、店員とか怒るのかな? なんて俺達話し合ってたんだぜwwwwダセェwwwうぇwwwwあっちから来ちゃったダセェwwwww



落ち着くわ。

でな、その女、いきなりこう言ったんだ。

「おごってくれるんでしょ?」

言ってねぇwwww

でもな、俺達すぐに「もちろんです」とか言っちゃったんだわ。

美人は罪だよなw

その女、不気味なぐらいよく飲むんだわ。もうゴクゴクだよ。グビグビでもないし、ゴクゴクだった。いや、グビグビでもいいか。

しかも全然酔わねぇの。

でも不愉快とかになんないんだよな。

可愛いし、言い表すの難しいんだけど、最低限のマナーとか礼儀はわきまえてて、おごるとなってもイヤな感じがしない……そんな態度だったんだよな。

かなり酔ってたから詳しく書けなくて申し訳ないんだけどな。



確か日付け変わってからもしばらく三人で飲んでたと思う。

他愛も無い話もして、とりあえずその女が大道芸だかをしてるパフォーマーだってことはわかったんだ。ダンスとか得意らしい。

酒と踊りがとにかく好きなんだとか。

で、俺らに声を掛けた理由は、なんかうやむやにされてよくわかんなかった。

でも確かその女、「私にお酒をご馳走しようって思ってたでしょ?」とかなんとか言ってた気がする。今思えば不気味だけどなwww



なんかもうベロベロに酔って、三人で店を出たんだ。ここからは記憶がかなりぶっ飛んでるのは許してくれ。もちろん、俺と親友で勘定は済ませたよ。

女は、お礼がしたい、とか言い出した。

俺も親友も、多分下心丸出しでめっちゃ期待してたと思う。

だって本当に可愛いんだぜ?

そんな女と居酒屋で出会って、こんなふうに酒奢って、お礼する、とか言われて……

どんなギャルゲーwwwって感じだろ?

俺も親友も、次の日は仕事だったけど、そんなのどうでもよくなってたし、とにかく女の「お礼」が欲しかったわけよ。それが何なのか全くわかんないけどな。



女は、俺達に「ついてきて」とだけ言って、どんどん歩いていったんだ。

ぶっちゃけ、ホテルだと思ったんだよな。俺もそういうのに縁が無かったし、思い込みだけは激しいからな。んで、親友と3Pはやだなぁ、とか真剣に考えてた。キモイだろ? こればっかしは童貞のお前らに同意求めらんねぇなw



「ついた」

って女が言ったのはさ、公園だったんだよ。公園だよ、公園。

俺も親友も、マジで(゚Д゚)ハァ?って顔だったなw

公園でお礼って……

とかしばらく考えちゃったけど、女が俺らから離れて、ストレッチしだしてからすぐに気づいたんだよな。

そういえば、ダンスで食ってるとか言ってたっけ、って。

すげぇ無難で妥当な「お礼」だよな。

ダンス見せてくれるんだぜ。わーすげーうれしーうまいねー

ってなもんだ。ぶっちゃけ酒が入って獣化してた俺と親友のガッカリ具合は同じだったと思うぞ。

けどな。

その女が踊りだした瞬間、俺と親友は腰を抜かしそうになったんだよ。

酔ってたから……で誤魔化せない、有りえない動きの踊りだったな。

重力とか無いみたいに、ぐにゃぐにゃ踊って、宙に浮いて。

いや、これ、誇張じゃないぞ。酔ってたんだ、で済まないほどにムチャクチャだったんだ。

首なんかも、一回転してた。いや、クソマジで。

途中、何回もTシャツをめくって腹を見せる動きをするんだけど、腹にはなんか顔みたいなのが付いてたな。やけにリアルで、目玉とか動くんだけど、それもまた踊りの中の一部みたいになってんの。

何がすごいってな、俺も親友も、引いたわぁ、とか、ありえねぇwwwとかっていう気持ちじゃなくって、すんげぇ楽しかったんだよ。

これこそ言い表すの難しいんだけどな、見ててめちゃくちゃ幸せな気持ちになるんだ。思い返せばかなり怖くて不気味な踊りなんだけど、見てたその時は夢中で見ちゃうんだよ。天才だと思ったわ。



女は踊り終わった後、放心状態になってた俺達に向かって一礼して、

「お酒、ありがとね。私、はらだし、っていう名前でやってるから」

って、めちゃくちゃ可愛い声で言って、そのままどっかに行っちゃったんだよ。

なんで追いかけなかったのかとか、今でも思う。

でも、踊りの感動でしびれてたんだよ。これも誇張じゃない。全く動けなかった。

ただその女の歩いていくのを呆然と見てた。最高な気持ちに包まれたままな。





もちろん、俺も親友も、「はらだし」って名前のパフォーマーを検索しまくったよ。

でもな、いっつも最後は妖怪に行き着いちゃうんだよな。

はらだし、って妖怪、知ってるか?

身体が顔みたいなんだってさ。で、酒が好きで、踊りを見た者にはいいことが起きるらしい。

もう、完全にあの女と一致するんだよな。

これはあの女のせいかわからんが、その後すぐに俺も親友も、すげぇ可愛い彼女ができたんだよ。

偶然かもしんないけど。

ぶっちゃけ、俺も親友も妖怪なんて信じてないよ。

幽霊も妖怪もお化けも、よくわかんねぇ。

あの踊り見たから幸せになれた、とかっていうのも胡散臭いしな。

でも、鮮明に覚えてるあの踊りだけは、少なくとも人間には踊れないように思うんだよな。



――まぁ、とにかく俺の話はそんな感じ。

今じゃ親友とも笑い話程度にしか話さなくなったし、あの女を見ることも無くなっちゃった。でも、もし他にも似たような体験したヤツいたら教えてくれ。

なんでって言われれば、あの踊りがまた見たいからだよ。

あの踊り見た奴となら、絶対ウマイ酒飲めると思うしな。