送り犬(おくりいぬ)
『狂歌百物語』より「送り狼」
送り犬は、山道などで人の背後をついて来る妖怪である。
地域によっては犬では無く狼だったり、イタチとして伝わる地域もある。
この送り犬は、普通にしている分には何もしてこない可愛い犬であるが、もしうっかり転んだりしてしまうと、たちまち仲間の犬がどこからともなく現れ、食い殺されてしまうという。
しかし転んでしまっても「……なぁんちゃって」と、転んだんじゃないぜアピールをしたり、休憩するつもりだったんだアピールをすると襲って来ないらしい。
寛大だ。
読んでてなんとなく「考えちゃいけないこと」を考えたあなたは鋭い。
考えれば考えるほど、妖怪というかただの野犬、ただの狼、である。
決定的なのは、ニホンオオカミは人間の行動を観察し、危害を加えてくるかどうかを見る為に後を追いかけてくる習性があるという。
あるいは最初から敵視していて、人間が隙を見せるのを窺っているだけだとしたら、先に述べた「転んだら襲われる」というのも納得できる。
当然犬にも似たような習性を持つ種類はいるので、やっぱりこの送り犬は人間が勝手に犬や狼を妖怪視しちゃっただけの可能性が高い。
――さて。
ではこの送り犬が人々に与えたメッセージはなんなのか?
上に書いてきたことを踏まえれば、
「山道で野犬や狼に遭遇してしまったら、慌てずに、転んだりしないように家まで急いで帰りなさい」
ということになるだろう。
ここにもしっかりと教訓があるのである。
ただの野犬も、妖怪にされることで皆に知られ、ストレートには伝えにくい具体的な「山での危険」の一つを他の大勢の人が知ることができるのだ。
いやぁ~、妖怪ってほんっとうに、いいもんですねぇ。