おいてけ堀(おいてけぼり)
歌川国輝『本所七不思議之内』より「置行堀」
本所七不思議の中でも、落語などで特に取り上げられて有名な怪異の一つである「おいてけ堀」。
話のおおまかな内容は以下の通り↓
本所(東京都墨田区)に大の釣りバカ男が住んでいた。
男は仕事をさぼってでも釣りに行ってしまう程に釣りが好きで、釣りの噂にはなんでもすぐに食いついた。
ある日、男は「錦糸町のとある堀で釣りをすると化け物が出る」という噂を聞く。
化け物の噂ならスルーしたものを、釣りが関係しているとなっては無視できない。
男は無謀にも錦糸町へと竿を担いで向かうのだった。
その堀へと到着した男は早速竿を構え、釣りを始める。
するとどうだろう、化け物どころか、今まで経験したことのないぐらい魚が釣れまくる。
笑いの止まらない男は篭が一杯になるまで釣り続け、夕方になったので帰ることにした。
「なんだよ化け物もいねぇしそればかりか入れ食いだ。さてはこの堀が釣れるって事を隠そうとして流したデマなんじゃねぇか?」
男はいい場所を見つけたと意気揚々と帰路につこうとした――その時。
「おいてけぇぇぇ。おいてけぇぇぇ」
噂は本当だった。不気味な声が男の笑顔を吹き飛ばし、男は一目散に家へと逃げ帰った。
「おい……チクショー……マジじゃねぇか! でもいいや。しこたま魚は釣ったんだからな――ん? あれ?」
男が魚で一杯だった筈の篭を見ると、なんと中は空っぽ。
男は愕然とし、もう二度とその堀へは近づかなかったそうな。
――とこんな感じである。
この現象の正体は実に様々。河童だカワウソだ追いはぎだ狐だ、などなど。
つまり全然わからないわけである。
怪異!
因みに現代でも一人取り残されたりすることを「おいてきぼり」だとか「おいてけぼり」と言うが、これの語源はこの「おいてけ堀」である。
おいてけぼりを喰らったら、ぜひ薄気味悪い声で「おいてけぇぇぇ」と恨めしそうに言ってやれば、次の日からきっと君はクラスの人気者!