隠れ里(かくれざと)
『今昔百鬼拾遺』より「隠れ里」
『今昔百鬼拾遺』を締めくくる最後の項がこの「隠れ里」である。
解説文は一切無いものの、絵を眺めているだけで常世とは違う、仙郷のような場所であることが伝わって来る。
しかしこの隠れ里、何も創作上だけのものではない。各地の民話や口伝などに、落人が築いた村落だったり、地図にも無く、誰も知らなかったが村があったーーなどの話は実際にあり、現代においても未だ発見されていない村などが存在する可能性はゼロではない。
また、人々が理想郷として隠れ里を想い描くケースも多い。険しい山の洞窟の奥、滝壺の奥などなど、今も昔も人の手が入りにくい場所というのは「何かある」と夢想されてきたのだろう。
また、海には隠れ里伝説は無い。それは、海の場合だと竜宮城があるからだと思われる。ある意味、隠れ里の海バージョンが竜宮城とも言えるかもしれない。
ーー絵をずっと見ていてふと思ってしまったことがある。一説では、隠れ里というのは神々が遊ぶ場所である、という。
確かに石燕の描いた絵も、どっしりと構えているのは大黒様みたいな神だけで、人間は全員こき使われているように見えなくも無い。
もしかしたら隠れ里は、理想郷とは程遠い、神が人間を奴隷にしてウハウハしてる場所ーーなのかも知れない。
なんでもいいから一度迷い込んでみたいとは思う。帰れる保証があるのなら、だが。