蓑火(みのび)
『今昔百鬼拾遺』より「蓑火」
田舎道などによなよな火のみゆるは多くは狐火なり
この雨にきるたみのの嶋とよみし蓑より火の出しは陰中の陽気か
又は耕作に苦める百姓の脛の火なるべし
蓑火は、雨の降る日、蓑を着て田舎道などを歩いていると、蓑にホタルのように灯ると云われる怪火。
その火を手で払いのけようとすると、消えるどころかどんどん火が増えていくのだという。
石燕も解説文で「野に出る怪火の多くは狐火」と前置きした後で、百姓の臑から出た火――と書いている。
この蓑火は各地に伝承があり、石燕の言うように正体を狐とする地域の他に、イタチや狸だとする地域もある。
梅雨等によく現れるということから、ホタルが真の正体では? との説もあり、ぶっちゃけそれが一番信憑性がある。
因みに、ホタルは夏、というイメージがあるかもしれないが、実際は全然そんなことはなく、色んな季節で見れるものらしい。
というかそもそもホタル自体が珍しくなってしまった昨今、もし蓑火の正体がホタルだったとしたら、遭遇する機会は少ないかも知れない。
だとしたら恐いどころかむしろ嬉しい怪異。
尚、熊倉隆敏の妖怪漫画『もっけ』では、「ミノムシ」というタイトルで蓑火を扱ったエピソードがあり、なかなか深い内容になっているので気になったら読んでみて欲しい。
さらに、京極夏彦氏の『絡新婦の理』において、この蓑火は結構重要なキーワードとなっていて、石燕の解説文をよく読むと解るのだが、多分作中に出てくる登場人物の名前(耕作とか、志摩子とか)の元ネタになっていると思われる。たぶんね。